『3』
どんなものでも真っ黒に変えてしまう闇も、真っ白な雪を完全に染めることなどできない
そんな幻想的な雪も吹雪きになれば恐ろしいものに変わる
強い風にのってきた雪は凍て付いてしまうほどの吹雪をおこす
どんどん積もってゆく雪と、天から降り続ける雪に挟まれどこか重い空気をつくらせる
押し潰されそうなほどの重圧感
万物の世界が創り出した自然の一部
少しでもその秩序が乱されればたちまち牙をむく自然災害
そんなものが身近にあると思うと身震いさえおこる
人間のかなう世界ではない・・・・
ならば・・・どんなものならかなうのであろうか・・・
絶対の力を手にすればかなわないものなどないのだろうか・・・
イヤ・・・その前に絶対の力などこの世に存在するのだろうか
それでもただ一つ信ずるものならこう言うだろう
この世でただ一人絶対的な存在・・・神様・・・・と
船から出発して約一時間が過ぎ、ロックの言うとおり洞窟まで難なくたどり着けた。
だが、それまでの道のりはまったく大変なものであった。
ティナのおかげで視界が良くなったのはいいが、自然の雪道なのでとにかく歩きにくい。
なにより・・・雪崩の心配が一番だった。少しでも間違えれば、そこから亀裂が走り
即あの世逝き。慎重に歩くロック達にとっては精神的疲労が一番堪えたようだ。
「くぁ〜、やっとついたぜぇ〜」
マッシュが洞窟の入り口に一番乗りし、その場で尻餅をつき汗をぬぐった。
そしてティナ、ロックと洞窟にたどり着く。
「はぁ〜、こんなにドキドキしながら歩いたのって初めて・・・」
「まったくだぜぇ〜」
こういう事にはあまり慣れていないティナとマッシュが口々に言う。
その間にもロックはカンテラを用意しティナに向き直る。
「ティナ!もうロッドの明かり消して良いぞ」
「あっ、うん分かった」
そう言い一回深呼吸をし明かりをゆっくり消していく。
「そういえばさぁ〜、ずっとそれ使ってたけど疲れなかったか?」
マッシュがロッドを指差しながら尋ねる。
「う〜ん。そういえば、そんなんでもないような・・・・」
具合を見てみたが、どうやらあまり疲れてないらしい。
マッシュは「へ〜」と感心しながら呟いた。
「とりあえずさぁ、お前らずっとその格好で暑くないか?さっさと上脱いで行くぞ」
よく見ると、ロックはすでにいつもの格好になっている。やはり外と違って中は
だいぶ暖かい。二人は急いで脱ぐとリュックにしまい、OKサインをだす。
ロックは頷き 洞窟の奥に向かって歩き出しティナ、マッシュもそれに続いた。
「それにしても・・・、やっぱ洞窟ってホント暗くてじめじめしてて気味悪い所ね」
しばらく歩いてからティナが、顔をしかめ少し身震いした。
「そっかぁ?俺は何にも感じないけどなぁ」
「っていうか、普通は気味悪がるぞ。俺だって未だに好きになれないね。
お前っていったい今までどんな修行してきたんだ?」
まったく平気そうなマッシュにロックは少し呆れた口調だ。
「修行とコレとは関係ないぜ。そんなの人それぞれだろ?」
「つまりぃ、マッシュって神経図太いって事なのね」
ポンッと両手を合わせティナは笑顔に言う。
瞬間、ヒョオオオオオッと冷たい空気が入り込んだ。
そしてすぐさまロックがコソコソっとマッシュに耳打ちする。
「気にすんな、ティナは悪気があって言ってるんじゃないからな」
「分かってるよ・・・。でもそのぶん、たちが悪いんだよなぁ」
二人の様子にティナは「どうしたの?」と何も分かってないらしく不思議そうに見つめる。
「何でもないさ。それより、ちゃっちゃと先を急ぐぞ。あと・・・なるべく足元や周りを
注意して歩いてくれよ、何が起こるか分からないからな」
ロックはサラッと話をそらした。
「はーい」 「へーい」
ティナとマッシュは声をそろえて軽く返事をした。
ロックが先頭を歩いているうちは、罠などにかかることは確実にありえない。
だから二人は安心して後ろをついて歩けるのでだいぶ気が楽である。
そんな調子でどのくらい歩いただろうか、だいぶ奥まで進んだ頃
彼らは大きな空洞になっている場所にたどり着いた。
とにかく広いそこは、いろんな所に通じる穴がたくさんあった。
「すっげ〜、超広いぜぇ〜」
マッシュは周りを見渡しながら感嘆した。
「イヤ・・・それよりも、どの道から行くのかが今は問題じゃないか?」
「そうよねぇ〜、こんなに沢山あると絶対どれかは行き止まりだったり
あとは・・・罠があったりするのよね」
「そうそう・・・・、さてどの道から行こうか」
ロックはしばし頭を抱え込むように考える・・・が次の瞬間、洞窟の奥から
ただならぬ気配を感じとった。三人は緊張した面持ちでいっせいに洞窟の先を見つめた。
彼らにとって知らない土地でのモンスターとの遭遇には慣れている。だがやはり、
何事も警戒するに越したことはない。その一瞬の油断が命取りに成りかねないのだから。
三人は各々武器を構え、じっと奥を見つめる。しばらくすると、ズンッ・・・ズンッ・・・と、
どこか重量のある足音とともに、その姿を現した。
「ちっ、とんでもねぇのが出てきたな・・・」
嫌悪の念を抱きながらロックは舌打ちした。トカゲを大きくしたような体に、するどい爪と
今は折りたたまれている大きい翼。口は横に長く裂け、これも鋭い牙を並ばせている。
ただ少しおかしいのが、このドラゴンがクリスタルのように透明な事だ。
「こんなドラゴン・・・初めて見たわ」
武器を構えながら驚愕と混沌とした眼差しをモンスターに注ぐ。
「確かにな・・・でもその前に、どうやらあちらさんはかなり敵意をもった目でこっちを睨んでるぜ。
友好的にってのはいかないみたいだな」
マッシュが冷静にドラゴンを見ながら呟くが、その顔には少し焦りの色が見える。
「向こうが攻撃をしてくる前に速攻でケリをつけるぞ。だが、あまり大きな魔法は使うなよ」
そう言いロックはティナに視線を向ける。彼女は大丈夫といった顔でうなずき剣を握りなおす。
どうやら剣の攻撃でかたをつけるようだ。そしてロックは持っていた飛び道具のナイフを
取り出し、ドラゴンめがけて放つ。狙いはドラゴンの目だ。
方向はバッチリだが、ドラゴンの大きな腕によって
簡単になぎ払われる。もちろん、それが当たろうとは思っていない。先ほどロックが投げた瞬間に
ティナとマッシュはいっせいに飛び出していたのだった。
二人をドラゴンの視界からなくす為の一撃である。案の定ドラゴンの目にはすでに
ロックしか映っていない。絶妙のタイミングでドラゴンの両脇まで移動していた彼らは
この機を逃さず、渾身の一撃で攻撃をしかけた。並みのドラゴンであれば
今の一撃で終わっていただろうがそれは並のドラゴンであればの話である。
このドラゴンはそれ以上のモンスターであった。現にティナの攻撃はその強度を誇る大きな体に
剣が弾き返され、マッシュの攻撃は刺さりはしたが少しひびが入ったくらいでびくともしなかった。
これはさすがにマズイと思った二人はすぐさまその場から離れようとした。
・・・がドラゴンも黙ってはいない。両方の翼を広げ、二人に向かっておもいっきりそれをふるった。
すんでで避けたが凄まじい衝撃波によって二人は壁ぎわまで吹っ飛び激突した。
ロックも追い討ちをかけようと近くまで来ていたがちょっとした爆風くらいですんだ。
すぐに二人が後ろまで吹っ飛ばされていったのを見て慌てて方向転換する。
「ティナ!!マッシュ!!」
二人の名を呼びながら急いで駆け寄ろうとした。
そしてなんとか立ち上がろうとしたマッシュが何かに気づく。
「ロック!!後ろだ!!」
マッシュが悲鳴をあげる体にむち打ち叫んだ。
ロックは言われた瞬間後ろを振り返りぎょっとする。
やはりドラゴンの攻撃もそれで終わりではなかった。巨躯の体を動かし、
大きな尻尾による攻撃を仕掛けてきた。
しかも速い。あんなものをまともに喰らったら骨の一本や二本じゃ済まないだろう。
マッシュがすぐに知らせてくれたので、ロックは這い蹲るよな体制でその攻撃をかわす。
その瞬間ロックの真上をものすごい勢いで尻尾が横切った。
ほんの少し髪の毛先が擦れたらしくチリッと焦げた。
すぐさま立ち上がり警戒しながら二人の所まで走り寄り間合いをとる。
「ロック大丈夫か?」
「ああ、悪い。なんとか大丈夫だ・・・そっちは?」
「こっちも大丈夫よ。まだ行けるわ」
お互い無事を確認し再びドラゴンと対峙する。どうやら、あちらも様子をうかがっているだけのようだ。
「だいぶ頑丈にできてるわよ。あの体・・・」
「・・・みたいだな」
ティナの言葉にロックはただ頷くことしか出来なかった。
何か手はないものか、どこかに弱点がないものか、三人はそれぞれの頭を使い考える。
だがいっこうに思いつかなかった。その間にもずっと様子をうかがっていたドラゴンが痺れをきらしたらしく
攻撃をしかけてきた。ドシッドシッと大きな地響きをたてながらせまってくると、太い腕を高く上げ
鋭い爪を光らせながら、そのまま力強く振り下ろしてきた。
「くっ・・・、散るぞ!!」
ロックの掛け声とともに三人はそれぞれ攻撃をかわしながら分散した。
ドラゴンの爪はそのまま地面に直撃し、床はその一撃で粉々に吹き飛んだ。
どうやら破壊力は抜群のようだ。だが、その一振りはたいして速くない。
気をつけてさえいれば難なくかわせるが、それではこちらの体力がもたない。
なんとか策を考えながら三人は攻撃をくわえていくことにした。
ドラゴンは何度も攻撃をかわされた事に少し苛立ちを感じたらしく先ほどよりも
だいぶ殺気だった目つきで睨み散り散りになった三人を見る。
そして標的をマッシュにしぼったらしく勢いをつけながら突進してきた。
「げ〜っ、マジかよぉ」
そう言いながら、ぐっと構えの体勢になる。またしても爪を剥き出しにしてその腕をふるった。
マッシュはこれを避け、そのまま大きな腕を自分の武器で突き刺すが、
コレもドラゴンにはあまり効いてないように見える。その間にも、ティナとロックが死角から攻撃を
しかけるが、二人の装備している武器ではすぐに弾かれてしまうようだ。
「くっ!!」
いったいどうすればいいのだろうか・・・未だ解決方法が見つからないでいると
ロックはふとあるものが目に入った。それは、マッシュが最初にドラゴンにつけた傷だ。
(さっきよりも、ひびが大きくなってる・・・)
そしてつい先程にもつけた傷にも目をやると、少しずつではあるがひびが広がっていくのが分かる。
次にマッシュの装備している武器にも注目した。バーニングナックル・・・炎属性の武器だ。
「なるほどな・・・、ティナ!!ファイヤの呪文を使え!!」
ロックはティナにむかって、おもいっきり叫んだ。
「分かったわ!!」
すぐさまその言葉に気づいたティナはドラゴンから安全な所まで距離をとり、呪文を唱える。
ロックも同じように唱えた。ドラゴンは未だマッシュを標的にしているらしく全く気づいていないようである。
しだいに二人の手に火の玉のようなものができると、それをドラゴンに向かって放つ。
見事命中した瞬間にドラゴンはものすごい咆哮を喉から発し体を仰け反らした。
直撃した場所は穴が開いたように大きく抉られている。どうやら効いているらしい。
それを見ていたマッシュはピュ〜と口笛を鳴らした。
「な〜るほどね。炎の攻撃に弱いってことか」
口の端をつり上げニヤリと笑った。 つまり、氷属性のモンスター・・・体はただの氷でできているのだ。
それでも普通の攻撃ではびくともしないほどの体は、よほど強力な攻撃をしないといけない。
「だったら!!こいつで一気にケリをつけてやるぜ!!」
この言葉にロックとティナは何か嫌な予感を感じ取った。
「マッシュ、ちょっと待って!!」
ティナが止めに入ったが時すでに遅し・・・。マッシュはある必殺技の名を口にした。
「鳳凰の舞!!」
その瞬間ロックとティナの血の気がさ〜っとひいていく。
必殺技が発動しマッシュの全身を炎が包みだした。そして、その炎が分散しいくつもの
人型を生み出していく。どのくらいできただろうか・・・辺り一面が真っ赤に染まった。
次の瞬間その一つ一つが一斉にドラゴンに襲い掛かる。
普段は敵全体に使う技であるが今回は一体だけ・・・。全ての攻撃がドラゴンに集中した。
沢山の人型の炎の塊がドラゴンに向かって一直線に激突していく。その一斉攻撃にドラゴンの体の
いたるところが砕かれていく。更にとどめと言わんばかりにマッシュがドラゴンに向かって
疾風のごとく走った。そして自らの拳でその体に一撃をいれた。
すでに、たくさんのひび割れを起こしていたドラゴンはその一撃で
粉砕された。瞬間、砕かれた一つ一つの欠けらが飛び散った。その衝撃により周りの岩に
ピシッと大きな音を立てて亀裂が走った。
「げっ!!」
マッシュがヤバイと言った顔で天井を見上げる。先程のマッシュの必殺技でだいぶもろくなっていたうえに
たくさんの欠けらが周りに飛び散り岩が崩れ始めているのだ。
「なにが「げっ!!」だ!!こんな狭い洞窟の中であんな大技やれば、こうなるに決まってんだろ!!」
マッシュに向かってロックが思いっきり大きな声で怒鳴る。
「もう!!そんな事よりも早く逃げないと!!」
ティナは呆れたように叫ぶがすでに遅かったらしく、
もろくも周りや天井がガラガラとものすごい音を立てて崩れた。
「きゃっ!!」
「ティナ!!・・・っと、うわ!!」
「お、おい、ロックどうすればいいんだよ」
崩れてくる岩を必死に避けながらマッシュが呼びかける。
「俺に聞くな!!とにかくここは逃げるぞ。二人ともこっちに来い!!」
ロックは三人が見事にバラバラの所にいる状態なので一箇所に集めようとしたが、無惨にも
天井の岩が一気に落ちてきた。激しい轟音とともに砂煙が中全体に広がった。
ロックは岩に潰されないように近くの穴に逃げ込んだ。後ろからは未だおさまらない騒音が
鳴り響いてくる。ティナとマッシュの身を案じながら巻き込まれないように身をかがめる。
何分くらいだったろうか、しだいにおさまってくるとロックは静かに立ち上がり
後ろを振り返ったが、たくさんの岩によって塞がれていて中の様子は全然分からなかった。
いや・・・見えなくともだいたいは分かっているだろうが。
「ティナ!!マッシュ!!聞こえるか!?」
一応叫んで見たが、やはり何も返ってこない。
(まあ、あの二人に限ってやられる事はまず有り得ないだろうな・・・それよりも、はぐれたのは厄介だな。
さっさと合流しねえと夜明けまでに帰れなくなる。・・・が、ここでこうしてても何も始まらないか)
ロックは通路の奥に目をやり先を行く事にした。
一方ティナも別の抜け穴に逃げ込んだが同じく入り口を塞がれている。
「はぁ〜みんなとはぐれちゃったよぉ。・・・二人とも大丈夫かなぁ。」
塞がれた岩を見つめながらその場で立ち尽くしていた。
(まっ、歩いていればそのうち会えるわよね♪)
こうして、ティナも先を進むことにした。
そして事の発端のマッシュはロック、ティナ同様の状態に陥っている。
「あ〜、困ったぁ。ロックに会ったら絶対どつかれるだろうなぁ。・・・はぁ〜」
あさってな方向の心配をしながらずんずん先の道を歩いていた。
見事に三人がバラバラの状態だが、三人が三人とも前向きな考えで事をおさめていた。
一体この先には何が待ち受けているのだろうか。それは、全くの未知数である。