『4』

 

 

 

 

            あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。

            現実にはさほど時間は経過して いない。

            だが、彼らの時はそれ以上に長く感じていた。

            散り散りになってしまった三人は、一先ずそれぞれの道を突き進む。

            その途中、何度か魔物と遭遇しているが幸いあのドラゴンのような魔物は出なかった。

            同じように氷で出来ている分いくらか手こずるが、やはり彼らの敵ではない。

            だがこういった洞窟の類には魔物の他に、トラップ、隠し通路など様々なものが存在する。

            それは時に人の命が左右する厄介な代物だ。

            そんな危険な場所をマッシュはためらいもなく進む。

            今、一体どのへんを歩いているのだろうか・・・

            そんな事を考えながら、代わり映えのしない風景の洞窟をただひたすら歩いている。

            そうしている内に、マッシュの耳にポチッっとなんとも安易な音が聞こえた。

            「んげっ!!」

            間の抜けたような声をあげるマッシュ。何かのスイッチを踏んだらしく、顔が引き攣る。

            だが数秒経っても何も起きる気配はなかった。

            「・・・んだよぉ、びっくりさせんなっての!」

            マッシュはホッと胸を撫で下ろし、今度は慎重に歩こうと心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             そんなマッシュをよそにロックは今どうしているかというと・・・ 

             「どわ――――――っ!!」

             大きく叫び声をあげながら猛スピードで落下中である。どうやら、先程のマッシュが踏んだスイッチの

             仕掛けが、こんな所で発動していたようだ。なんとも迷惑な話である。

             穴に落ちてからさほど長くもかからず、すぐに底が見えてきた。

             ロックは、受身もとれずそのまま床に背中から思いっきり落ち、あまりの痛さに顔を歪める。

             「痛ぅ―――。・・・くっそぉ 、何なんだよ一体!?」

             身の覚えのないトラップに憤りを感じ、なかなか起き上がることの出来ないでいた

              ロックはそのままの体勢で懐から懐中時計を取り出す。

             (・・・もう、こんな時間か・・・。ちゃっちゃと目的果たして早めに帰らねえと間に合わねぇな・・・)

             はぁとため息を漏らし、そのまま目を静かに閉じた。 

 

 

 

             あの人の変わりなの・・・?

 

 

 

             再びよぎるセリスの言葉

 

 

 

             あの時、あの場所でセリスを助けた頃の俺は、ただ・・・

             帝国によって傷つけられている人を見て見ぬふりが出来なかった

             それが元帝国のものだったとしても・・・ただそれだけの理由だった

 

             でも、間近でみた彼女に一瞬レイチェルと重なった事をよく覚えている

             その瞬間にはもう・・・・彼女を他人とは思えなくなっていた

             特別な何かが自分の中を駆け巡った

             それでも・・・彼女はレイチェルじゃない

             元帝国将軍のセリスだ・・・そう自分に言い聞かせた

             平静を装い、一緒に逃げる決意を彼女に伝えた

 

 

             どうして私を守ると・・・?

 

 

             脱出のさい、問いかけられたセリスの言葉に

             似ている・・・そう答えた

             つい出てしまったあの時の言葉は俺の本当の気持ちだった

             セリスを・・・レイチェルに似るこの人を助けたい

             何もしないで失うのは嫌だ・・・そんな思いだった

 

 

             その日から俺はセリスとずっと行動をしている

             そしてしだいにセリスの気持ちに気づきはじめた

             だけど俺にはそれに答えられなかった

             セリスを仲間以上に意識しているのは確かだ

             でもそれは、本当の自分の気持ちなのか

             それともただ・・・レイチェルと重ねているだけなのか

             よく・・・分からないでいる

             その曖昧な気持ちにいつもセリスを傷つけている

 

 

 

             ・・・似合うぜ。そのリボン

 

 

 

 

              それだけしか言えなかった言葉に、セリスはどんな顔をしていたんだろうか

              ・・・今の俺にセリスの気持ちにこたえる資格はない

               迷っている自分をどれだけ情けないと感じたことか

              それでも今はレイチェルを救う事しかはっきり見えない

              だから・・・こうして今の自分がいる・・・・            

   

 

 

            

            

               レイチェル・・・それだけを頼りにロックは前に進む。だが本当の気持ちを

              彼は気づいているはずなのだ。でも、それを認めてしまうと彼の中にいる

              レイチェルという存在がなくなってしまうのではないかと恐れている。

              それはただの罪悪感。レイチェルを守れずに失ってしまった彼は

               自分のせいだと思いつめる。レイチェルを救うまで自分は幸せになってはいけない

              そう思い込んでしまっているからである。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              一方ティナは、流れるような動作で剣を振るい、全ての敵を倒し終える。

              ふぅと息をつき武器をしまい、敵の死骸をあとに再び歩き始める。

               しかしその足取り、表情ともに少し影をおとしているように見える。

              「・・・・ロックとマッシュ・・・今どのあたりにいるんだろ・・・・」

              その呟きは、彼女の寂しさから出たものであろう。

              ずっと孤独な生活を送ってきた彼女を、

              仲間に、一人じゃない事の楽しさ 、一緒にいる事の楽しさ、そして

              それが一番大切な事などだと教わった。それは、とても素晴らしい事である。

              しかしその分、一人になると今まで以上の孤独感が彼女を襲う。

              重苦しい何かが、心を押し潰す。いいようのない重圧感が心をわしづかみにする。

              それに・・・絶えられないのだ。

   

 

              一人になる事が・・・こんなにも辛いことだったなんて・・・・

 

 

               無意識にそんな事を思ってしまう自分に気づかぬまま、数秒程歩いた矢先の事である。

              突然、彼女の足元の床が抜ける。一瞬の浮遊感の後は、ただ落ちるだけであった。

              「!!きゃあっ!」

              小さな悲鳴を残して、ティナはその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

              少し切り替わり、マッシュは今・・・

              「っと・・・やっべ・・・また変なスイッチ踏んじまった・・・」

              懲りない彼のドジっぷりのおかげで、またしても被害にあう仲間であった。

   

 

 

 

 

 

 

              そして、落ちていったティナは・・・

              「・・・・いった〜い!!」

              たいした怪我もなく無事にすんだようだ。 そして、おもむろに天井を見上げた。

              「あ〜あ・・・」

              もう、自分がどこらへんにいるのかさえ分からなくなってしまった。

              落ちてきた穴を眺めながら一人ぼやき、よいしょっと声をだしながら

               立ち上がろうとした瞬間、何か大きな物体を踏んでいることに気づいた。

              「!!」

              恐る恐る目線を落とすと、そこには見覚えのある人物がいた。そしてその人物と目が合う。

              「やっと、気づいてくれたね。ティナ・・・」

              「!!どっ、どうして!?」

               いるはずのない人物と再会しティナは動揺するが、それもすぐに解け思わず顔が綻んだ。

              そう、その人物とは・・・

              「エドガー・・・」

               見知った人物に会えた事でホッとするようにティナは呟いた。

              「再会を喜んでくれてるのはうれしいが、まず先に退いてくれるとありがたい んだが・・・」

              「あっ、ごっごめんなさい。大丈夫だった?」           

              ハッとなり、急いで退きエドガーに手を差し伸べる。

              「ああ、心配ない。大丈夫だよ」

              差し出された手を取りながらエドガーは立ち上がった。

              そして、簡単に埃を払う。どこにも怪我がなく、ティナはホッと胸を撫で下ろす。

              「それで・・・どうして、ここに?」

               その問いにエドガーは小さい溜息をつき真顔でティナを見直す。

              その表情に少し面食らったティナは緊張したように顔が強張った。

              「その言葉をそっくりそのまま君に返してもいいんだがね・・・」

              「あっ・・・・・」

               ティナは言葉が出ず、困った顔になりエドガーから思わず視線を逸らした。

              「いや、すまない。別に君を責めているわけではないんだ」

              「そっ、そんな大丈夫よ。それに誤るのはこっちだもの。

               黙って出て行ってしまって、本当にごめんなさい」

              悪いのは自分にもかかわらず、優しく気遣ってくれているエドガーに

              ティナは慌てて誤る。

              「いや、いいさ。気にするな。しかし、何故ティナがこんな事を・・・?」

              「え、ええ。実はね・・・・」

              ティナは、今までの経緯を全て話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              「・・・・そいう事か。」

              ティナの話を聞き終わり、組んでいた腕を下ろす。

              「確かにティナの言う、この吹雪の元凶がここにいれば万事解決だ。

              だが、やはり皆に話は通しておくべきだったと思うがね」

              「うん・・・ホント、ごめんなさい」

              「その事はさっきも言ったが、気にしなくてもいいさ。君だけの責任でもないしね」

              エドガーは安心させるように優しくティナを見つめる。

              そのせいか、少し沈んでいたティナの顔はだいぶ柔らかくなった。

              そんなティナを見てエドガーは、口元に笑みをつくり再び話しを始める。

               「さて、今度はこっちの経緯を話さなくてはいけないね。

              まあ時間もないし、それは歩きながら話すとするか・・・。」

              「ええ、そうね」

              再び歩き始めた二人。そして、エドガーの口が静かに開く。

              それは、マッシュが部屋に戻ってきてからの話だ。

  

 

  NEXT・・・

 

 

 

             ←小説の部屋へ〜