『2』

 

 

 

 

            時間は遅く感じる時と早く感じる時がある。その差は きっと大分大きいのだろう

            遅く感じる人はやはり一分が十分、十分が一時間、一時間が一日のような感覚

            早く感じる人はその逆なのであろう

            何故そんな感覚があるのだろうか

            時の秒針は変わることなく一定のリズムで過ぎ、

            世界中の人すべてが同じ時間を過ごしているというのに・・・・  

 

 

 

 

             三日目をむかえ、外はもう夜になってしまった。

             夕食も終わり、皆がそれぞれ好きな事をやっている。

             そんな中ロックは何をするわけでもなく、ただ部屋でじっとしているだけだった。

             「夜か・・・・・」

             夜になれば、外は全てが黒に染められる。

             今ここから出れば一cmその先は、全て闇だ。

             ただ降り続ける白い雪が、かすかに見え隠れしているだけの世界。

             そんな中にロックは出歩けるはずもなく、椅子に座り

             ぼんやり眺めるだけしかできなかった。

             「夜になれば、お前も大人しくていいな」

             今日は、ほとんど本を読みふけっていたセッツァーが

             少々嫌味なことを言う。それに対してロックは少しムッとくる。

             「うっせぇ・・・・・」

             目線を変えずに呟くロックに、セッツァーはどこか痛そうな、

             それでも・・・小さな苦笑いをしたが、そのまま何も言わず部屋を出て行った。

             夜の間はロックも外に出ようとはしないので見張りもしないですむのだ。

             だからみんなも、ロック自身も解放された気分になり気が楽になる。

             それでもロックにとっては、ほんの少しではあるが。

             今この部屋にはセッツァーが先ほど出て行ったのでロック以外は誰もいない。

             静寂に包まれたこの部屋はロックにとって、とても時間が長く感じられた。

             その中に一人でじっとしているとつい、いろんな事を思い出してしまう。

             そう・・・今のロックにとってそれは・・・・

             「・・・・ちっ」

             小さく舌打ちし、外の景色を悔いるように見つめる。  

          

 

 

             どうして俺はあのとき一緒にいてやれなかったのか・・・

             どうしてあいつから離れてしまったのか・・・

             あのとき一緒にいれば俺は・・・守れたはずだ・・・  

 

             仕方がない事かもしれない。それでも、自分を責めることしか出来なかった。

 

             記憶を失くしたのも、元はといえば俺を庇ったからだもんな

             それで、あいつを苦しめて・・・・・でも俺は何も出来ないまま離れて・・・・そして・・・

             俺のせいだ・・・・、あいつを守ってやれなかった俺のせいなんだ

             だから絶対生き返らせる、必ず幻の秘宝を探し出しておまえを・・・

 

 

             『ロック。なぜあの時、私を助けてくれたの?

             あの人のかわりなの… 私は?』

 

             セリスの言葉が頭をよぎった。自然と手で頭をおさえる。

             どこかで・・・・何かに迷っている自分を抑え込むかのように。

             しばらくして一呼吸し、自分を落ち着かせる。

             (とにかく、吹雪がいつ止むか分からないんだ。もしかしたら、明日にでも・・・

             その前になんとしても、あの洞窟に行かないと)

             立ち上がり、みんなにさとられないよう静かに支度をする。

             この吹雪の中の雪道を歩く時、洞窟を探索する時に

             必要な物を手際よくすべてそろえる。

             「ロックいる?」

             ・・・とちょうどその時、偶然にもティナがノックもせず

             顔を覘かせながら入ってきた。

             (げげっ!!)

             ロックは顔をこわばらせティナを凝視し、そして同時にティナもロックを凝視する。

             「ロック・・・・・・」

             ティナは今すぐにでも出て行きそうなロックの状態に呆れ顔で呟く。

             しばらく間があき、二人の間に短いやら長いやらの沈黙が流れた。

             そして、先に動きを見せたのはロックからであった。

             「・・・・・・・はぁ〜、ノックくらいしろよ〜」

             額に手を当てて、うな垂れながら情けない声を出すロックにティナは何故かクスッと笑う。

             「ねぇロック、行くならみんなが寝静まった頃の方が良いわよ♪」

             ニッコリと笑顔でティナは話す。

             「は?」

             思ってもみなかった事を言われロックは驚き戸惑う。

             「・・・・見逃して・・・くれるのか?」

             「ええ。でも・・・その代わり私も連れて行ってくれない?」  

             「は?」

             先ほどと同じく思ってもみなかった事を言われ以下同文。

             そして再び二人の間にしばしの沈黙が流れた。

             「なんで?」  

             またしてもロックが先に口を開き当たり前の疑問点をティナにぶつける。

             その質問に、先ほどまでニッコリしていたティナの顔が一瞬にして真剣な表情になる。

             「理由は三つ。一番の理由はこの吹雪。最初は気づかなかったけど

             昨日の夜あたりかな・・・、この吹雪にかすかな魔力を感じ始めたの。

             ちょっとずつ、本当にちょっとだけど少しずつその力が強くなってきてる。

             それにちょっと、変な違和感を感じてね。誰かに見られているような・・・、そんな気がするの」

             「!!・・・・まさか」

              ロックはハッとなる。ここまで、言われれば誰でも気づく。つまりは・・・

             「この吹雪・・・自然のものじゃなくて、誰かが意図的にやったのもだとしたら・・・」

             結論にたどりつくまえにティナが答える。ロックは少し考え込み、再びティナを見る。

             「つまり、その犯人がどこにいるか分からないから、とりあえず

             俺が見つけたあの洞窟しか今のところ手がかりが全くなしってんで、

             そこまで案内しろってことか。・・・でもなぁ、だったら何でこの事をみんなに言わないんだ?」

             更に疑問をティナにぶつける。  

             「これは、あくまで推測なの。だから百パーセントあってるとも言い切れないのよ。

             当たってたとしても、そこに犯人がいるとも限らないんだから

             そのために、みんなを危険な目に合わせるわけにはいかない。

             それに・・・夜中に出て、朝みんなが起きてくる前に帰ってくれば何の問題もないしね(^v^)」

             最後の所はニッコリと笑みをつくりながら話す。

             ロックは再度考える。ティナの言っていることには賛成だった。

             きっとロックでも同じ事を考えつくだろう。

             (しかし・・・・・)

             「でもティナはいいのか?外はかなり危険なんだぞ、

             確かめるだけだったら・・・俺一人でも・・・」

             「そこは二つ目の理由が出てくるんだけどね、とりあえず秘密♪」

             ティナの言葉にロックは一瞬目が点になる。

             (・・・なんでだ?秘密にしたくなるようなほどの内容なのか?)

             「・・・・えっと・・・、じゃあ・・・・三つ目の理由は?」

             とりあえず、流すように話を進めた。

             「ちょっとね、最近身体が鈍ってきちゃって。

             それに暇だったから、気晴らしにいいかなっと思ってね♪」  

             「・・・・・・」

             珍しくティナのパワフルな言葉にロックは少し押されぎみになる。

             (まあ確かにこんな時間にしかもこんな吹雪の中、外に出るなら  

             ティナの魔法があればだいぶ楽になるが・・・・

             しかしティナをわざわざそんな危険な目に合わせるわけにもいかないし、

             ・・・かといって断ればきっと、みんなにバラされるだろうしな。)

             「まあ、しょうがないか・・・。・・・で、いつ、どこで待ち合わせするんだ?」

             ロックは考え抜いた結果しぶしぶ承諾し、次に進ませた。   

             「やった♪じゃあねぇ・・・12時過ぎに甲板の入り口前ってことでいいよね。

             じゃ・・・あたしも用意してくるから、また後でね」

             パッパと予定を言い、さっさと出ていってしまったティナのいた方向に視線を

             しばし向けていたが、しばらくしてどっと疲れたようにうな垂れる。

             「はぁ〜、これでよかったのかな・・・。まあ・・・セリスじゃなくて・・・」  

             言いかけてハッとなる。

             なぜ、そこでセリスが出てくるのだろうか?

             セリスが一緒だと、何か問題があるのだろうか?

             別に一緒でも・・・・

 

 

             もしかしたら、見られたくないのかも・・・しれない

             自分があそこへ行くのは、レイチェルを生き返らせる秘宝を見つけ出すため

             もし、そこに俺の捜し求めているものがあったのだとしたら・・・・

             俺は一体どんな顔をしてセリスに向き合えばいいのだろうか

             もしかしたら、その事でセリスをまた悲しませてしまうかもしれない

             それだけは・・・・絶対に避けたい  

          

 

             どれだけ自分が不安定な状態でいるのかロック自身にも気づいている

             でも自分はどうしたらいいのか分からない

             どうしたいのかさえ分からない 

             未だ答えを見出せないまま、ただ時間だけが過ぎてゆく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

  

             一方セッツァーは部屋を出た後エドガーのいる部屋へ移動した。

             話があるとの事なのでセッツァーを椅子に座らせエドガーは  

             作ったコーヒー二つをテーブルに置き席に着いた。   

             「それで、何の話かな?」

             エドガーは落ちついた所で話を切り出した。

             「たいした事じゃないんだがな。その・・・最近様子が変じゃないか?あいつ」

             セッツァーは椅子に座りコーヒーを飲みながらエドガーに語りかける。

             「あいつとは・・・ロックの事か?」

             うすうす感づいてはいたので一応ロックの名を口にするエドガーに

             セッツァーは軽くうなずく。

             「そうだな・・・まあ、お前も知ってると思うが

             あいつは今・・・きっと昔の事を思い出しているのだろうな」

             昔のこと・・・ロックといえば今いる仲間内では

             ほとんどの者が知っている事である。

             「・・・・・」

             セッツァーは無言でカップを置き、横目で虚空を見つめた。

             「まあ、そうだろうとは思ってたけどよ」

             「それがどうかしたか?」

             エドガーは首をかしげ不思議そうに尋ねる。   

             そして、戸惑いがちにセッツァーは口を開く。

             「ああ・・・ちょっとな、見てて痛々しいんだよ。あの顔を見てると・・・」  

             その言葉にエドガーはフッと笑う。

             「まあ、私はロックとは長い付き合いだからな。

             あいつの・・・たまに見せるあの表情にはもう慣れたさ」

             「慣れたって言ってもな・・・どうにかなんないのか?

             過去ばっかにこだわってちゃ、つらいのは自分自身なんだぜ?だから・・・・」

             「だから私達が何を言っても、それは他人の言葉だ。

             ロック自身が気づいて決着をつけなくては、何もならない。

             私達が口を出すことでもないのだよ。出来ることは、

             あいつがあれ以上ひどくならないように見ていればいい。それだけだ」

             まじめな顔でエドガーは話した。少し間が空きセッツァーの目が閉じる。

             「・・・そうか。なら・・・気にすることもないか」

             そしてそのまま、椅子にもたれ掛かる。  

 

 

             それでも・・・今のロックを見ていると、自分まで昔を思い出す。

             ただ思い出すだけならいい。でも、あの状態のロックを見ていると

             どうしてもつらい過去を思い出す。昔の自分を見ているようで・・・。

             それが・・・嫌だった。どうにかしたいのは、ロックの為ではなく

             自分の為に言ったのかもしれない。

 

 

             「お前は・・・大丈夫なのだろう?」

             「は?」   

             思いにふけっていた自分にいきなり声をかけられ

             一瞬驚き、エドガーを見る。

             「誰にも、つらい過去の一つや二つはあるものだ。

             忘れることなど出来ないが、もうそれは過ぎた過去の出来事だ。

             過去ばかり見ていては、人はいつまでたっても成長しない。

             だから今この瞬間を、これからの未来を見つめ大切にしていけばいい。」

             エドガーはどこか懐かしむように話す。それは、かつての自分にも

             言いかけているような感じである。 そして少し間を置き、再び話し出す。

             「人は皆それぞれ違ったつらい過去を持つが、目指すものは一緒だ。   

             もっと前を見て進めばいい。後ろばっかり振り返っていては、前に進むことなど

             到底無理な事だ。大切なのはこれからの未来なのだからな。

             ・・・それでも時には振り返って思い出すのもきっと大切な事だがね」

             言い終えるエドガーにセッツァーはかすかな苦笑いを浮かべた。

             (そう・・・だよな。そんな事・・・当の昔に決めたはずじゃねえか)

             「分かってる。俺は・・・・大丈夫だよ」

             「・・・そうか」

             エドガーは肘をテーブルにつけコーヒーを口にふくむ。

             その顔は相手を和ませる穏やかな表情だ。

             常にクールで落ち着いている彼は、特に決まってもなかったが

             仲間の中ではほぼリーダー的存在になっている。

             さすがに、国をたばねる一国の王だけの事はある。

             「そういえば・・・ロックとストラゴスはどうしてるんだ?」

             話は変わってエドガーは、さっきから気になる事を聞いた。

             どちらかと言えばロックの方が気になっているのだが・・・・

             「ああ・・・ロックは部屋にいるし、ストラゴスはリルムのいる部屋

             に行った。・・・・そっちは?」

             どうやら、ロックはちゃんと部屋にいるらしくホッと安心する。

             「こっちは・・・マッシュだったらトイレ、カイエンは剣の修行、

             ガウもリルムのいる部屋に行ったよ。・・・・・・ふむ、そういえばマッシュのヤツ遅いな」

             だいぶ前に出ていったはずなのに、いまだ戻ってこないマッシュをエドガーは

             (まあ、いいか・・・)と心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             一方マッシュは・・・

             「・・・・・う〜ん」

             唸っている・・・のではなく、悩んでいた。

             実は先ほどトイレに向かう途中にロックとティナの会話を

             立ち聞き(盗み聞き?)していたのだった。

             最初だったらすぐに止めに入っていただろうに、

             何故かその時はあえてやらなかった。

 

             『ちょっとね、最近身体が鈍ってきちゃって。

             それに暇だったから、気晴らしにいいかなっと思ってね♪』

             ・・・とティナは言っていた。

             俺だって・・・俺だって溜まってるんだ―――っ

             しかもこ〜んな面白い話・・・是非俺も参加したい!! ・・・んだけどなぁ

             兄貴にバレたら絶対怒られるだろうし・・・

             はぁ〜・・・どうすっかな・・・

 

             お兄さん思いのマッシュは、どうしても兄を裏切る事ができなかった。

             ずっとトイレで葛藤しているのだが、どうしても結論が出てこず

             こうして悩み中・・・・。時がくるまでトイレで永遠と・・・

 

 

 

          

 

 

 

 

             「・・・・あっ、ちょっとガウ動いちゃだめでしょっ!!」

             「あう〜〜」

              ガウは情けない声を出しながらベットに腰掛けるストラゴスに

             助けを求めるように視線を送る。

             (すまぬガウ、今は耐えるのじゃ)

             という目でガウに返した。

             その様子にリルムは頬をプクーと膨らませた。

             「何よう、別に普通の筆で描いてるんだから全然大丈夫よ!!」

             言いながら、筆の先をガウにビシッと向けた。

             「じゃがのう、あのガウに動くなとはかなり酷な事じゃゾイ」

             そしてリルムは更に頬をブクーと膨らませた。

             「じゃあ、おじいちゃんがやってよ」

             「ダメじゃ」

             即答するストラゴスに「でしょ?」といった顔をし

             またガウに向き直りスケッチを開始する。

             (まあ、仕方がないかのう・・・。リルムもこの吹雪でだいぶストレスが

             溜まってきているのじゃろう。何かしてないと気がすまないのだろうな。)

             そしてすまなそうな顔でガウを見た。

             ガウはと言えば、ただ遊びに来ただけだというのに

             こんな事になるとは思ってもみなく、かなり退屈そうである。

             しまいには寝てしまいそうな・・・というかすでに寝てしまっている。

             「こら〜ガウ、寝るなー!!」

             筆をブンブンと振りながらガウに怒鳴りつけ、その怒鳴り声に

             ガウはパッと起き上がり先ほど同じポーズをつくった。

             (本当にすまんのうガウ・・・)

             哀れみの目でガウを見ていたが、ふと思いついたように   

             リルムに問いかける。

             「ところでリルムよ、他の二人はどうしたんじゃ?」

             他の二人とは、セリスとティナの事である。

             リルムはそのまま描きながら喋った。

             「えっ?うんっと・・・分かんなーい。二人ともいつの間にか

             どっか行っちゃったんだよね〜」

             「ほ〜・・・」

             別にどうというわけではないが、ちょっと気になったので

             聞いてみたものの知らないというのなら、たして気にしなかった。  

             眠そうになりながらも頑張って耐えているガウと  

             今はご機嫌でスケッチをしているリルムを横目に

             ストラゴスは、何を思ったのか窓の外を見つめた・・・・

             その目線の先には永遠と降る雪が更に勢いを増し

             容赦なく吹雪いているだけであった。

 

 

 

 

 

 

             ところかわってこちらでは、

             セリスが一人、甲板に向かって階段を上がっていくところだ。    

             その階段では何故か一段、一段かなりのゆっくりペースである。

             あたりまえだが、外は寒いのでいつもの格好にコートを着ている。

             甲板にたどり着くと、そこは全くの闇で何一つ見えない状態だった。

             手探りで近くの証明を点け、ほんの少し明るくし

             そして、外側の手すりに向かって進んでいく。

             その足取りは少し重く感じられた。

             床を見ると、微かに雪が入り込んできているらしく少し積もり気味だ。   

             「はぁ――」

             手すりの雪を払いのけ、片手を軽くのせ小さく溜息をついた。

          

 

 

             彼女―ティナがロックの事を好きなことくらい私にも気づいていた

             でも、それを知ったトコロで何をするわけでもない  

             ただ・・・気づいていないフリをするだけ・・・

             そう・・・知りたくなかった

             もしティナが自分の気持ちに気づいたら、どうするつもりなのだろう

             イヤ、きっとどうする事もできないだろう

             それは私も同じ

             ロックの心の中ではまだ、レイチェルさんが生きているから

             その想いはとてつもなく強いから

             だからそこに入り込むことなど私にはできない  

             ・・・・でも私だって負けないくらいロックが好き

             最初に出会ったあの時から

             その想いがどんどん強くなっていくのが自分でもはっきりと分かる

             どうしようもないほどの・・・この気持ち

             おさえる事なんてできない

 

 

             「ロック・・・・」

             思わず呟いてしまったのにも、気づかないまま

             しばらくそうしていると、誰かが近づいて来ているが分かった。

             「・・・セリス殿ではござらんか。何故このような所に?」

             足音の主はカイエンだった。

             呼びかけられたセリスは、一呼吸おいてカイエンに向き直った。

             「うん・・・・ちょっとね、カイエンこそどうして?」

             「拙者、ここに来てから夜はいつもこの場所で

             剣の修行をしているでござる」

             そう言い刀を握る。船内はともかく、この場所ならおもいっきり

             刀を振ることができるからである。

             ・・・といっても、そんなに刀を振ったりはしない。

             たいがいは、精神統一といったところだろうか。

             よくもまあこんな寒い所で、できるものだ。さすがわ、剣士。

             「へ〜、そうだったの。すごいのねカイエンは」

             そして、笑った。とても綺麗な笑顔だ。

             その表情にカイエンは少し複雑な感じになる。

             それは、最初に出会った頃のセリスとはだいぶ異なるのだから。

 

 

 

             大切な家族や国を奪った帝国の仲間だと目の敵にして刀を向けたとき、

             あの時はロック殿が庇い、エドガー殿、マッシュ殿に説得されたが

             いまいち信用できず、次に会話したとき自分は「信用出来ない」と言った

             この言葉を言ったときも、刀を向けたときも

             彼女は恐れることなく自分を見つめ、それはまさしく

             常勝将軍の名に相応しい戦士の目をしていた

             それが今は、どうだろう

             こんなにも明るく笑うとは昔の彼女からは考えられまい    

             そして、ここまでセリス殿が変われたのは

             ・・・それは、きっと恋をしたからなのであろう

             しかし、それは・・・・

             今のセリス殿はとても綺麗に笑う

             でも、どこか寂しそうな切なさも秘めている

             「ちょっと、どうしたのよ?急に黙り込んじゃって・・・」

             セリスの声で再び現実に引き戻された。

             「すっ、すまんでござる・・・・。なんでもないでござるよ」

             セリスは首をかしげ、右手の人差し指を顎にもっていき

             不思議そうにカイエンを見る。

             カイエンは少し慌てて片手で手を振った。

             「ホント、何でもないでござる。気にしないで下され。

             それよりもセリス殿・・・いらぬお節介かもしれぬが

             拙者、妻も子もいた身でござるが、それでも恋愛については

             未だによく分からないでござる。

             しかし、人の心とは誠に正直でござる。 

             それをわざわざ引っ込めたり、押し返そうとしては

             意味のない代物になってしまうでござる。

             そして、それは自分を苦しめる原因になるだけ・・・・。     

             他人の心など、誰にも分からないでござる。

             だからまずは、自分の心から素直に受け入れるでござる。

             自分がどう思っているのか、それが真の気持ちなら・・・

             それでいいと思うでござる。悩む必要はないでござるよ」

             少し遠まわしの言い方ではあったが、セリスには伝わっていた。

         

 

             ・・・カイエンの言うとおりかもしれない 

             どうして私は思いつめていたのだろう

             ロックが誰を好きでも、誰がロックを好きでも、結局それはどうすることも出来ない事

             ただ私はロックが好き・・・そう・・・それだけの事だった

             私の本当の気持ち・・・・ 

             今の私にとってはそれだけで十分だった

 

             「うん・・・少し、分かった気がする。・・・カイエン、ありがとう」

             素直な気持ちでお礼を言うセリスにカイエンは照れくさそうな表情をした。

             「しかし、こいう事に関しては拙者よりも

             エドガー殿の方が一番似合いそうでござるな」

             「ふふっ、そんな事ないわよ。なんかね、

             カイエンにこいう事言ってもらえるとすごく嬉しい」

             そうなのである。初めて出会ってから、まともな会話など

             ほとんどした事がなかったのだから。

             カイエンがこうやって励ましてくれるのが何よりも嬉しかったのだ。  

             自分を認めてくれているのだと・・・  

             仲間だと思ってくれているのだと・・・そう思えるのだから。

             「本当にありがとう。すごく・・・すっきりしたわ・・・。

             もう、ここにいる必要もないみたいだし、私・・部屋に戻るけど

             カイエンは・・・まだいるのよね。それじゃ、お先にね」   

             そう言い軽く手を振って去っていくセリスをカイエンは静かに目で送った。

             その途中セリスが突然くるりと振り替えった。  

             「あのね・・・さっきのカイエン、なんだかお父さんみたいだったよv」

             照れながらそう言い残し今度こそ去っていった。

             カイエンも少し照れくさそうにしながらも、セリスの行った方向へ

             しばらく視線を向けていた。

             その表情は本当に父親みたいな、そんな優しい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

             ・・・そして今日も一日が終わろうとし始めている。

             夜の静けさに彼らはいつものように眠りに陥った。  

             一部の者は何事もなかったかのように浅い眠りにつき

             その他の者は何も知らずに深い・・・深い眠りについた。

 

             約束の12時が近づいてきた頃、ロックは静かに起き上がり

             セッツァーとストラゴスが完全に寝入っているのを見計らい

             そ〜っと荷物を取り出し忍び足で部屋を出た。

             (ふ―――っ)

             とりあえず見つからずにすんだのでホッと一安心しすぐ足の方向を甲板へと向けた。   

             辺り一面真っ暗な状態なのでカンテラを用意し静かに歩き出した。

             甲板の階段付近まで来ると、そこには二つの影があった。   

             (・・・・?って何で一人多いんだ!?)

             そう・・・二つの影があるなんておかしい事なのだ。

             何せこの事はロックとティナしか知らないはずである。

             駆け足で近づくとあちら側も気づいたらしく動きを見せた。

             「ロック・・・」

             ティナが困った様な口調で名を呼んだ。

             「よお!!ロック、遅かったじゃねえか」

             こっちはとっても元気よく名を呼ぶ。  

             「マッシュ!!」

             ロックは思わず叫んだが、すぐハッとなり自分の手で口を塞ぐ。

             (・・・っと、あぶね〜)

             「つーか、何でマッシュがここにいるんだよ!?」

             とりあえず声のボリュームを小さくし、マッシュを指差しながらティナに尋ねた。

             「そ、それがね・・・実はあの時、私達の会話を聞かれてたみたいなの。     

             ・・・で自分も一緒に行きたいんだって」

             「そうそう」

             ニッと笑いマッシュは頷いた。

             (おいおいマジか・・・っていうかもうここまで来たら後戻りできねぇし・・・) 

             「・・・・ったく、しょうがねぇなー」

             こうなると二人も三人もたいして変わらないのでなげやりにOKした。

             「うっし!!やったぜ」

             マッシュはガッツポーズを作り喜ぶ。 

             ティナはよかったねと言いながら微笑み、逆にロックは疲れきった顔で溜息をついた。

             「はぁ〜、とにかく時間が勿体無い・・・さっさと行くぞ」   

             ロックにうながされ、ティナとマッシュは後に続いた。

             そして彼らはブラックジャック号を降り外に出た。

             相変わらずの猛吹雪に一瞬怯んだ。何せ外は真っ暗、寒いし、吹雪いている雪が

             体を容赦なく打ち続けている。唯一の明かりのカンテラもあんまり遠くまでは見わたせない。

             そんな中マッシュが声をかけてきた。

             「なあ〜、ちゃんと辿り着けるんだろうな?」

             この吹雪に不安を感じたのか心配そうにロックを見る。

             「安心しな、出る前にここの位置と洞窟までの位置は把握済みだし

             そんなに遠くねえから、コンパスを見ながら進めば難なく着ける。

             まっこれでも俺は長いこと冒険者やってんだからまかせなって」

             「そうか・・・頼りにしてるぜっ」

             余裕の笑みを見せるロックを見てマッシュはすぐに不安というものがなくなった。

             「ああ。・・・とそうだ忘れるところだった」

             何か思い当たったのかリュックを下ろし何やらガサゴソし始めた。

             「「???」」

             何を探しているのだろうとマッシュとティナは顔を覗かせた。

             「・・・っと、あったあった。おいティナこれちょっと使って見ろ」

             そう言い、取り出した一本のロッドをティナに渡す。

             「!!・・・って何でこんな物ロックが持っているのよ!」

             そう・・・渡された物はホーリーロッドといいかなり貴重な武器だ。

             それをロックが何故持っているのか不思議に思うのも当然である。  

             しかしどうやらマッシュには価値が分からないらしく?マーク状態に陥っている。

             「まあ・・・あれだ、俺の今までの功績のうちの一つだ」   

             ロックは得意げに話した。

             「ふ、ふーん・・・でもこれ私には装備できないわよ」

             「いいんだよ別に、ただティナならこのロッドを使ってちょっと

             辺りを明るくする事ができるかなと思ってさ」

             「そんな事できるのかな〜、ともかく一応やってみるね」

             そして静かに目を閉じロッドに集中する。

             ロッドに込められた魔力をほんの少し放出するようなイメージで念じる。

             しばらくするとポォッとロッドの先が光だし半径一mほどの光が広がる。  

             「「おお――っ」」

             ロックとマッシュは歓声をあげた。

             「すげーなティナ、さっきまでと違ってすげぇ先まで見えるぜ」  

             マッシュははしゃぎながら周りをキョロキョロと見わたす。

             「やっぱ、思ったとおりだぜ」

             ロックも視界が広範囲で見渡せるようになった事でだいぶ機嫌がいいようである。

             「へ〜っこんな事できたんだ、すっごーい。ロックよく分かったわね」

             「えっ?まあな、なんとなくだよ。それより先を進もうぜ」

             「ええ」

             「おう」

             ティナとマッシュは同時に返事をし先に行くロックの後をついていく。

         

 

                                                NEXT・・・

 

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